いのいち勉強日記

Sakana AIでResearch Engineerをしています。京大薬学研究科でPhDをとりました。Kaggle Grandmasterです。

【書評】「〈起業〉という幻想」アメリカ起業の現実。

「〈起業〉という幻想」は、アメリカの起業家に対するヒーローのようなイメージを、データから論破していくという、なんとも面白い本です。起業家といえば大成功したモデルが取り上げられがちですが、大部分はよく知られているものとは違うんだよということを示したのが本書です。将来、起業や独立をしたいと考えている人は一読の価値ありです。また、読み物としても面白いので起業はしないかなって人もぜひ読んでみてください。

本書でいう「起業」

本書でターゲットにしている「起業」とはなんでしょうか。
「起業」と聞いてイメージされるのは「新しい技術をつかって社会課題を解決する」という会社ではないかと思います。しかし、実はこれは「ベンチャー企業」というものです。ベンチャー企業の定義は一意ではないかもしれませんが、簡単にいうと先ほども言った社会課題をクリアすることを目標に掲げ、かつ「会社の成長」を目標にしているところがひとつ特徴だと思います。
ですが本書でいう「起業」では個人事業主も含みます。ビジネスを自分で始めた人たちを対象に本書が成り立っていることを留意しておく必要があると思います。それを考えた上で本書を読んでいくと理解がはかどるとおもいます。

データからわかることは?

本書はいろいろな統計データをもちいて話が進んでいきます。
「たとえば誰が起業しやすいか」は確かに直感とは違ったのでわかりやすく面白かったです。結論からいうと、起業しやすい人っていうのは頭が切れて、人脈いっぱい持っていて、スーパーマンのような人「ではない」ということです。統計的データから見て、起業しやすい人の特徴は、
・失業状態
・パートタイムで働いている
・頻繁に転職をしている
・給料が少ない

といった傾向があるそうです。

さらには、「大学を中退した人は起業家になる可能性が高い」っていうのは全くの嘘ですよ、というのは面白かったですね。確かに起業家の人たちを見ると、大学を中退して大成功した人はいます。スティーブ・ジョブズとかですね。しかし、そういう人もいるというだけで、それ自体が原因となり起業家になる可能性を高めるわけではないそうです。むしろ、大学行ってしっかり勉強してビジネスでマネジメントした人の方が、起業家になる可能性は高いそうです。
しかし、勘違いしてはならないのは、これはあくまで「起業家になる確率の話」であって、「起業で成功する確率」ではないということです。成功した起業家には大きな原体験がある話は聞いたことがあると思うのですが、たとえば大学を中退する人は一味違った体験をしている可能性は高いのではないかなと思っています。それが原動力となって起業した場合の確率とかがわかると面白いなとは思いますが、原体験の強さとかは数値化できないので分析はできないだろうなと思っています。
その辺りはいろんな起業家の本を読んだり、実際にお話を聞いたりして、自分の経験値としてストックしていくしかないデータなのだろうと思っています。

成功する起業家とそうでない起業家

この話はダイレクトに役にたつと思います。まさにこういう分析がこれから起業を始める人には必要なのではないかと思います。
起業家の方の本や講演をきくと勉強になることは多いし、モチベーションもすごく湧いてきます。またインタビュー記事を見ると美味しく切り取られていたりするので、かっこよく見えて真似したくなっちゃいます。(…はい、これは僕の感想なのでみなさんはそんなことないかもしれません!)
もちろんそういう熱い思い、強いモチベーションは大事なのですが、それだけでなく「冷静にデータから見てみようぜ」と感じさせてくれます。ここに書かれていることはよく考えてみれば当たり前に見えるのですが、普段見かける起業家の成功秘話などを見るとこのロジックは若干変だがいろんな要素が絡まって大成功したぜってパターンが多いのかなと思います。メディア的にはそっちの方を面白く書いた方が、コンテンツとしては面白いので別いいいのですが。自分がいざ起業するって時には、そればっかみてるだけではきっとダメだなと思わせてくれました。
この辺の内容は「起業の科学」でより詳細に述べられていると思います。こう言った分析された資料が今はあるので、無謀な失敗は減らせるのではないかと思います。

まとめ

本書では他にも、自分のビジネスを始めるときの資金はどうしているか、どのようなジャンルで起業しているか、起業家の生み出す価値など興味深いデータ分析がたくさんあります。メディアで祭り上げられた華々しい話ばかり追いかけるのではなく、冷静にデータをみて考えることの重要性がわかります。起業を考えている人は一度は目を通して見ると参考になることもあるのではないかなと思います。ちなみに、読み物としても面白かったので、起業に興味ない人でも楽しめると思います。